『劇場版Free!-the Final Stroke- 後編』を観て

※この記事では、『劇場版 Free! the Final Stroke 後編』(以下『後編』)の内容に触れます。ご覧の際は予めご了承ください。

ようやっと自分の中で決心できたので、前の記事の宣言通り『後編』を観賞してきた。
本編に先立って公開された予告動画では、遙がプールサイドで倒れてしまったり、東に凛が詰め寄ったりしたシーンが見られたりと、今回も今回で波乱含みの展開になるのは間違いないとは確信していた。さて果たして。

 

まずは全体的なことから。

Free!』シリーズに限らず、これまで何回も映画館で映画を見てきたが、実はほとんどの回で集中力が切れ、途中で腕時計をチラ見してしまっていた。
しかし今回は2時間のあいだ(厳密にはそのうち冒頭の10分くらいは他作品の予告ではあるが)、一度も腕時計を見ることが無かったばかりか、上映が終わり館内の照明が付いても席を立ちたくなかったし、後ろ髪を引かれながら映画館を離れた後も、しばらく心ここにあらずといった感覚が残っていた。それだけ没入感と見終わった後の余韻が今まで見てきた中で最も強かったということの表れだと思っている。

 

基本的にテレビアニメが合計約6時間(30分/回 x 12回と仮定)を3か月間かけて放送するのに対し、劇場版は長くても2時間。それでいて作中で経過する時間はあまり変わらず、その間に各登場人物に起こった出来事やそれによる成長の様子が描かれている。更に過去作でのシーンやBGMも織り交ぜられているので、新しい展開による刺激と懐かしさが次から次へと押し寄せてくる。1回見ただけではとても作品を把握しきれない情報量の多さだ。

それだけに、座ってじっとしていただけなのに体力も気力も消耗したのを感じた。見終わった後席を立ちたくなかった理由にはそれもあるのだが、それは映画館ならではの音響と映像の臨場感によって、登場人物たちの水泳や仲間たちにかける想いだけでなく、それを迫力ある作品に仕上げた製作スタッフさん方の熱意が伝わってきたからに違いない。

「感動」とは「感情が動かされる」とも書けるけれど*1、今作は心の底からそう思えるものだったと言える。

 

さて、ここからは内容について少し触れていきたい。

まず、推しだからそう見えたのかもしれないが、宗介の出番が比較的多いなと感じた。しかも、これまではどちらかというと幼馴染である凛に寄り添っている印象が強かったが、今作では遙のことを気にかけるシーンがちらほら見られた。それはきっと、中学から高校にかけて自らを追い込み続けるあまり肩を壊し、水泳から離れざるを得なかった自らの苦い経験を、遙に重ねて心配になっていたがゆえの行動だということは容易に想像がつく。初出の2期(『Free! Eternal Summer』)では特に「孤高」を体現するかのような雰囲気をまとっていた印象が強いせいか、その頃と比べると変わったものだなぁと感じた。

また宗介だけでなく、登場人物たちの一体感が一気に増していて驚いてしまった。
これまでの間に、概ね全ての主要人物たちは(個別にではなくグループごとにでも)何らかの形で出会ってはいるし、普段から接点はあるので1年も経てば関係が深まって当然なのだろうけど、その部分は描かれないのでいきなり見ると一瞬「いつの間に!?」ってなってしまう。
特に遙たちとは異なる学年の子たち。最も描かれるシーンが多いのは主人公とその近くにいる人物たちだから、同じ土地にいた2期までならともかく、遙が大学進学を機に上京し、しかも世界に通用する実力をつけるために大学の部活とはまた別の形で特訓しているとあれば、自ずと登場頻度が減ってしまう。

なので、渚や怜が岩鳶にいた頃には出会わなかった人物たちとも臆することなく会話に参加していたり、ロミオら岩鳶勢と百太郎ら鮫柄勢が前の世代よりも砕けた雰囲気になっているシーンは、個人的にはちょっと衝撃的だった。*2
とはいえ、特に鮫柄水泳部は名前が明示されているキャラが百太郎だけになってしまうので、名前も顔も明示されない同級生や後輩キャラばかりのなかではさすがに孤立してしまっていないだろうかと、要らぬ心配を感じてしまったり。

 

先ほどさらっと書いたが、渚たちの学年もついに高校生から大学生へとまた一つステージが上がった。それぞれが大学水泳部のジャージを着た姿を見たら、遙たちが進学したとき以上に感慨深くなってしまったし、進学先も岩鳶勢と鮫柄勢とが入り交じった点には「そう来たか!」と思わず唸ってしまった。彼らの大学生活もまた、ほんのわずかしか見られなかったので、ドラマCDとか『特別版 Free! -Take your Marks-』みたく番外編として視聴できないかしら。

 

そして同様に1年経ったということは、遙たちの学年はついに二十歳である。本編ではさすがに無かったが、アルコールが入ってちょっとしたドタバタを繰り広げる彼らを垣間見ることもできるのだろうか、と思うと、こちらもあったらあったで視聴してみたい。あまり羽目を外した姿は考え物だけど。

 

そして今作、というよりシリーズ全体を締めくくるメドレーリレーのシーン。
実は『前編』を観た後にTwitterを流し見していたら、きっと『後編』でもメドレーリレーを泳げる、という趣旨のツイートを見かけたのだが、個人的には「誰がチームになれるのか」とずっと信じられないでいた。遙がフリー、凛がバッタ、郁弥がブレ、まではいいとして、バックは誰が務めるのか。日和も専門ではあるけど遙との関係はやや薄いようにも思えるし、最後だけにまさか真琴が選手として戻ってくるのか…。

 

そんな懸念を、『後編』は斜め上の発想で払拭してきた。真琴並みの知識がある人ならば、残るバックの枠に誰が入るのか予想がついたのかもしれないが、さすがにそこまで多くはないはず。私もこのシーンに至るまでの展開で(もしかしてこのまま行くとバックは…?)と察しがついたものの、実際にメドレーのシーンでは驚かないではいられず、思わず映画館にいることを忘れて声を上げてしまいそうになった。

 

最後、メドレーリレーを泳ぎ切り「完全燃焼」した遙を見て、今作で完結と言っているし、長いようで短かった遙の競泳選手としてのキャリアも終わるとしても*3、それもまたいいラストだ、と思っていたのだが、なんとそれも裏切られてしまった。作品としては続かないけども、だからと言ってスパッと「はい、この作品はこれで終わりです」とはせず、遙たちの競泳選手としての人生はこの後も続いていく(遙も「ただの人になるのはもう少し後でいい」と言っている)含みを持たせたエンディングもまた、最初に述べたように見終わった後の余韻を強めたに違いない。

 

ここでは触れなかったキャラクター達も含め、仲間と共に青春を水泳に賭ける彼らの姿がまぶしく見えるとともに、これまでよりまた一層愛おしく感じた。
この作品に出会うことが出来て、本当に良かった。

*1:「感情が動く」と能動態でも表すことは出来るけど、今回は映画を観賞したことによって感情が揺さぶられたことから敢えてこの表し方にした。

*2:この辺りは、渚や百太郎のようなムードメーカーがいるからこそ成せるのかもしれない。

*3:字の如く「水泳で競う」ことはせず、1期(副題のない『Free!』)の頃に見せていたような、穏やかな水面に身を任せている姿に戻るイメージ