<完走の感想>ツルネーつながりの一射ー

今年2023年の1−3月期に放送された『ツルネーつながりの一射ー』(以下「2期」)。1期(『ツルネー風舞高校弓道部ー』、以下「1期」)の放送のあと、昨年公開の映画(『劇場版ツルネーはじまりの一射ー』、以下「劇場版」)を挟んで4年強経っての続編であった。

本当はリアルタイムで視聴したかったのだが、やむを得ず録画して後追いで少しずつ見進めることにし*1、本放送から1クール弱遅れてようやく本編の視聴が一通り終わった。

感想を一言で言ってしまえば「ツルネはいいぞ。」となってしまうのだが、それではあまりにも雑すぎるので、自分の中での作品に対する解像度を上げるためにも、その「いいぞ」の中身をもう少し掘り下げていきたい。

※この先、本編の内容に触れる箇所があります。ネタバレを気にされる方はご注意ください※

 

 

ストーリー全般について

今回放送された2期の内容は、原作小説の『ツルネ-風舞高校弓道部-2』(綾野ことこ 著・以下「原作」)にあたる。

今作に限った話ではないが、原作をアニメ化なりドラマ化なりするにあたり、原作にあるシーンがカットされ、その部分を補うようオリジナルのシーンが挟まることはままある。その例に漏れず、この2期でもそのような箇所はあった。

見る人によっては「ストーリーが原作に忠実じゃない!」と不満に思う人はいるだろうし、私も2期放送前に原作を読んでいて、ここをアニメ化するとどうなるのかと想像していた部分はあったので、原作に無いシーンは見ていて気になった。
例えば、辻峰勢*2のメインキャラである二階堂について、その友人である不破は2つの秘密を知っていると原作にはあるが、アニメでは秘密があることにすら触れられていなかったし、逆に第6話で描かれた、風舞女子勢が男子勢に負けじと奮起する様子は、原作には無い。

 

しかし、そういった再構築によってストーリーラインがちぐはぐになることは(当たり前ではあるけど)無かったし、結末まで変わってしまったわけではなく、逆にこういう流れもありだなと、個人的にはアニメオリジナルの部分も楽しめた。

 

1期では、湊が早気による不調に向き合っていきながら、風舞勢男子5人が友情を深めていく様子が描かれたが、それに感化されたからなのか、2期では彼らだけでなく他の面々へも波及していった様子がうかがえる。
忘れがちになってしまうが、1期で描かれた期間は、高校入学直後の2,3か月間程度と、決して長くはない。しかも、最初から5人は一致団結していたわけではない。むしろその逆であった。そのような中で、創設間もない部活が全国大会への駒を進める活躍を見せたとなれば、誰しも少なからずその姿に心動かされることだろう。愁や二階堂らならなおさらだ。

 

「つながりの一射」という今作の副題には、風舞らしい五人立ちでの一連の射の姿だけでなく、風舞と桐先・辻峰とが学校を超えた「つなが」ったこと、また各校内での人物たちの「つながり」の意味も込められているのだと思う。
1期でもそうだったが、2期でも『ツルネ』は各回の内容に弓道に関連する用語を忍ばせていた。それと同じ流れとは言え、この芸の細かさにはただただ敬服するばかりである。

 

各キャラクターのデザインや描写について

アニメ化によって、これまで原作の文章から想像するしかなかった辻峰勢5人の姿形が明らかになった。

 

厳密には、二階堂と不破は原作の挿し絵で先行して描かれていたほか、劇場版の最後で続編(2期)を予告するシンボルとして、わずかな時間ながらセリフありで登場していたが、風舞勢・桐先勢に次ぐ主要メンバーの一員として、本格的な登場となった。

湊たちよりも1学年上であることを分かりやすくするためか、原作に比べると二階堂も不破もやや大人に近い風貌にデフォルメされていた。特に不破は、垂らした前髪だけ色が違うというやや奇抜なヘアスタイルになっていて、初めて見た時は驚いた。

他の3人についても、原作で触れられていた性格や体形がしっかりと描き出されていたと思う。その中でちょっと意外だったのは、大田黒が想像していたよりも表情豊かで、しかも妹尾に好意を寄せる様子が描かれていたことだ。妹尾を含め、風舞には女子部員もいて*3、更にファンクラブまでできるほどのモテキャラである七緒もいるにもかかわらず、これまで恋愛に関する描写が無かったのは、言うまでもなく『ツルネ』は弓道を通して登場人物たちが成長を重ねる様子を描いているからで、そこに弓道とはかけ離れた要素を盛り込んでくるとは思わなかった。もちろん原作にもそのような部分はない。

誤解のないように念のため付け加えておくと、そこには「色恋にうつつを抜かす様子を見せるなんて、真面目に弓道に打ち込んでいないんじゃないのか」などと非難をする気持ちは微塵もない。むしろそのように弓道とは離れた一面が挟み込まれることで、大田黒(と彼をフォローする樋口・荒垣も併せて)の人柄を更に知ることが出来るのではないか、と個人的には好意的な印象を持った。

 

他のキャラは1期から引き続いて登場しているので、変わりないと言えば変わりないのだが、登場人物たちの表情が1期より明るく見えた。作画の精彩さが劇場版並みにまで上がったという現実側の理由もあるだろうし、作中側にしても、湊たち5人がまとまりを見せたり、桐先勢にしても、県大会から地方大会・全国大会に向けて気持ちを入れ替えて日々の練習に取り組み始めたことは作用していると思う。(特に菅原兄弟)

中でも湊の眼がアップになるシーンでは、彼の緑色の瞳がキラキラと光を反射する様に、眼光の鋭さとはまた違う、強い眼力を感じて、思わず画面から目を逸らしてしまった。それは、湊の内にある純真な気持ちが十二分に作画に表れていることの証と言えるだろう。

 

オープニング(OP)・エンディング(ED)の曲について

OP・EDの各1,2分間は、単にスタッフロールを流し見する時間でも、ましてや早く本編を見たいからと飛ばしてしまう時間などでもなく、作品の世界観と現実とをつなぐ重要な時間であり、集中して本編を視聴を始めるため、また本編の余韻に浸りつつ緩やかに現実に戻るためにも、それぞれに使われる曲は本編と同じくらい重要な要素だと思っている。

 

2期のOPで使用された『℃』は、1期に引き続いてラックライフというアーティストの曲である。疾走感、『ツルネ』という作品の持つ爽やかさ、そして弓道にひたむきに向き合う湊たちの姿をも感じさせてくれるし、歌詞にも副題にある「つながり」と絡めた部分があり、とてもふさわしい曲だと思う。

 

一方EDで使用されたのは、「丁」(てい)というアーティストの『ヒトミナカ』という曲である。OPとは打って変わって静かで落ち着きのある曲でありながら、暗いということはなく、むしろ聞き終わった後には前向きな気分になれる。個人的には、休日前の仕事帰りや、平日を翌朝に迎える就寝前に聴くと曲調と気分がマッチして非常に癒される。

とは言いつつ、1話のEDで初めて聞いたときは、それまであまり聞いたことの無かった独特な歌い方に面食らってしまい、第一印象はあまり良くなかった。

しかし、2期では1期と違い、EDは本編と一体化しているため、他のBGMと同様に本編に重なりながら曲が流れ始めるのだが、何回か聞いているうちに、この曲の落ち着いたメロディと澄んだ印象の歌声が各回を締めるにあたって非常にいい仕事をしているのだと気づいた。そして2期が終わるころにはすっかりこの曲の虜になってしまっていた。

 

ところで、1期ではOP,EDともに最終話まで同じ曲が使われ、2期でもそれは概ね変わらなかったが、1話だけOPもEDも曲が流れない回があった。それはストーリー終盤で、全国大会も佳境に入り実質的なクライマックスとも言える回だったのだが、通常回であれば一息つくことが出来るはずのCMも含めてのおよそ25分間、見ているこちら側までつられて息を飲んでしまった。
この説の冒頭とは真逆のことを言うようだが、話の内容によってはあえて曲を流さないというのも、見ている人を作品の世界に引き込むにはとても効果的だなと感じた。

 

最後に

今回は各話個別に寄ることは出来るだけせず、作品全体で感じたことを、なるべく簡潔に書くことを意識していたが、それでもこれだけの分量になってしまった。
これでもまだ魅力を伝えきれているとは言い切れないし、書こうとしたらどれくらいの字数を要するのか、見当もつかない。*4

拙筆な記事ではあるが、ここまで読んで『ツルネ』がどんな作品なのかを気になった人は、ぜひ一度見てほしい。(できれば1期から)

 

さて2期放送開始の少し前、およそ5年ぶりに原作小説の3巻目『ツルネ』が発売された。2期放送終了からまだ半年も経っていないが、また数年後にはそれをベースにした3期が制作されるのだろうか、と期待が膨らむ。

そして、作品の楽しみ方で忘れてはならない醍醐味の1つが聖地巡礼である。このブログでも、昨夏に1期の聖地巡礼に赴いた様子を前後編に分けてまとめたが、2期も同様に赴くつもりでいる。その時には、また記事にまとめてここでお伝えしたい。

*1:昨年、今回と同じ時間帯で1期が再放送された際には頑張ってリアタイしていたのだが、翌日のパフォーマンスに明らかに差し障った。

*2:顧問の先生や二階堂のおじも二階堂たちに関係する人物ではあるが、ここでは弓道部に所属する生徒5人を指して「辻峰勢」と呼ぶ

*3:桐先にもいるようだが、あまりにモブ過ぎて作中ではほとんど登場しないため、ここでは省略する

*4:ちなみにこの記事も、書き始めてから書いては消し書いては消しを繰り返し1ヶ月以上かけてしまっている。